2人の医師が嘱託殺人罪として起訴された事件が、なぜこのように大きな話題になるかと言えば、それは安楽死との関係だろう。安楽死という言葉を調べると定義がなかなか定まらない。一応決めることとする(一般的には対象として動物も含まれるが、ここでは除く)。患者のためにその命を終わらせる目的で、「他人が何かをすること」が積極的安楽死で、「他人が何かをしないこと」が消極的安楽死としよう。他人とは医師の場合が多いが、例えば前者は致死薬などを用いて死期を早める行為、後者は延命措置を中止する行為で特に狭い意味で尊厳死とも言う。
終末期の患者に対する消極的安楽死は、世界の諸国で広く普及している。それに対し、問題なのは積極的安楽死であるが、それを容認しているのは一部の国や地域であり、そのため安楽死の希望者がそこに赴き思いを遂げる場合があるという(ただし、正確には海外の安楽死には自殺幇助によるものも含まれるのだが)。日本ではというと他人による積極的安楽死は刑法199条の殺人罪、刑法202条の嘱託殺人罪に原則として問われるが、ある要件を満たす限り、その他人(医師)の行為の違法性が阻却され無罪となりうるとする判例がある。その安楽死が容認されるのはまとめると次の四条件を満たす場合という。1.患者本人の明確な意思表示がある 2.死に至る回復不可能な病気・障害の終末期で死が目前に迫っている 3.心身に耐えがたい重大な苦痛がある 4.死を回避する手段も、苦痛を緩和する方法も存在しない
今回の2人の医師の行為は安楽死として嘱託殺人罪の違法性は阻却されるのだろうか。検察はもちろんマスコミの多くは嘱託殺人罪の成立を支持しているようだ。私の教え子で今も連絡してくれる検事がいるが、彼もその立場だろう。私もそれに異論はないが、Aさんの「死にたい」という気持ちを尊重しなくてよいのだろうか。