近所の寿司屋で気楽に呑んでいたところ、女性客の1人から「私、先生の塾生でした」と声をかけられ、場所がらもあり大変驚いてしまった。
お歳は30を超えていると見られ、生徒と言われても思い出せない。
少し酔っているのか、大きな声で当時の私の様子をくり返し言う。
それによると、私は白衣を着て棒を持って厳しく生徒を指導していて大変こわかったというのである。
「そんなことをしていたかな…」と私はうろたえた。
そのままにしておくとまだまだ私の悪口(?)が出てきそうなので「まあ、まあ、その辺で勘弁して下さい」とお願いして静かにしてもらった。
確かに25年ほど前、白衣を着ていた頃がある。
個人塾をしていた民家の2階から、表通りのビルのワンフロアーに一念発起して移転した頃である。
だからとても気合が入っていたと思う。
しかし、「棒を持って」などということは記憶にない。
ただ、昔の生徒から「先生は厳しく、こわかった」という話は何度となく聞かされている。
その点はあながち誤りではない。
私はその方(名前を聞く余裕もなかった)には「今の私は仏です」と私の過去を否定するような弁解をしてしまった。
「先生のお陰で、……になりました」という言葉が聞けなかったのは本当に残念なことである。