大学に入って身体はいたって健康になったが、心は病んでいた。親の手前、司法試験を受けなければならなかったが、それを口実に偽りの生活を続けていた。大学に籍を置きながら東京で放蕩生活を送るなど、親を騙していた。それが発覚し、結局は親元を離れて自分で生活せざるを得なくなった。
夕方以降に家庭教師をするため、早朝から喫茶店のウェイター、製麺所の工員、弁当屋の配達員など、世間を知らない私は居場所を求めてアルバイトを転々とした。不思議と1日も休まなかった。
学習塾を始め、当初は塾を安定させるためにアルバイトは続けた。結婚もした。40歳頃から1年に何回か風邪のような症状で寝込むことが多くなった。点滴をしてもらったり薬を飲んだりしても一向に良くならない。耳鳴りなどを訴えて耳鼻咽喉科に行ったときなどは、原因がわからず、「私も50近くなんですけど、どこか身体の不調が来ますよね」などと医者から言われ、がっかりした。
動悸が激しくなったりもしたので、大学病院でいろいろ検査などをしてもらったが問題はなかった。「ここではもっと重篤な患者さんが対象なんですよ」と先生に言われたときには「自分の苦痛は誰にも理解してもらえないんだ」と思い悲しくなった。
中学生の娘が朝に起きられずに登校できない状態になり心療内科に通っていた。小さな医院なので期待していなかったが、私も行って自分の症状を説明した。問診票のようなものに○×などを書き込んだ。
医者から「典型的な仮面うつ病です」と言われた。聞いたこともない病名なので驚いたが、病気の原因が分かって何か救われたような気持ちになった。「うつ病でありながら通常の精神症状よりも、身体症状が前面に出てくる病状で、精神症状がマスク(仮面)されているという意味で『仮面うつ病』と呼びます。」との説明を受けた。
ようやく長年の疑問が解けたのである。