「自分の人生に絶望している人、それが死を望むほど強い患者に対して私達はどこまで何ができるんだ」 命を終えたいと訴える患者に医師達はどう向きあっているのか。
私達は取材を始めました。……ALSなどの神経難病に携わる医師達は延命を望まない患者にかける言葉を探しつづけていた。……
去年の12月26日にNHKで「患者が“命を終えたい”と言ったとき」―NHKスペシャルが放映された。「ALS患者AさんがSNSで知り合った医師に自らの殺害を依頼し、薬物の投与を受けて亡くなる」という「安楽死 その1」で取り上げたこの事件が背景にある。「がんの終末期やALSなど神経難病の現場では、どこまで患者の希望に寄り添うべきか、どんな言葉をかければいいのか、医師たちが模索している」という。「命をめぐる葛藤の記録」とある。
番組によると、嘱託殺人事件の当事者であるALS患者Aさんは「鎮静」について関心があったようだ。「鎮静」とはどうしても苦痛が取りきれないとき、起きて過ごすことがつらいときに、睡眠導入剤を使って眠ることで苦痛を感じないようにする方法である。主にがんの末期患者の緩和医療で行われるが、眠ったまま死を迎えることもあるという。そうなれば結果的には自然死でなく安楽死のおそれもあるため、それが容認されるのに近い条件で「鎮静」は行われる。テレビではそれを望むがん患者Bさんに対する医師の対応が描かれていた。
また、ALS患者Cさんは人工呼吸器をつけることを拒否(そのまま命を終えたいと希望)していた。人工呼吸器をつけると痰の処理を頻繁にしなければならず、また発声ができなくなる。これ以上家族に負担をかけたくないことと、ずっと閉じ込められた世界で生きていくのは耐えられないことが拒否の理由だ。
実際ALS患者の約7割が人工呼吸器をつけない選択をしているという。そのため次のような意見もある。「日本では一度、人工呼吸器を装着すると終末期の例外を除いて外せない。だから遠慮する人が少なくなく、着用の障壁になっている。患者の自己決定で呼吸器を外せる選択肢もある方が着ける人が増え、救える命も増えるはずだ。」(医師 梶龍兒氏)
結局、ALS患者Cさんは担当医師の説得により人工呼吸器を装着した。事件で亡くなったALS患者Aさんはというと、「病気により緊急事態になった場合、人工呼吸器の装着を拒否します。」という「意思確認書」をベッドの後ろに貼ってあったという。