筋萎縮性側索硬化症(ALS)は現在治療法はなく、その症状は時間とともに悪化していく。
「どんどん(症状が)進行しています。最近は目が覚めると右目がしばらく開きません。想像してみてください。体もどこも、ひとつも動かない。(もしそうなれば)視線も使えないので、合図を送る手段が何もない状態です。でも感覚と意識はあるんです。」
ALS当事者たちの声 NHKクローズアップ現代 10月14日
感覚と意識だけ(ここまで進行する患者は一部だけだという)。他とのコミュニケーションもできずにこんな極限状況になって生きていく力、希望は湧いてくるのだろうか。ALSの患者の将来に対するこのような恐怖は体験した者でないと分からないだろう。広い意味での安楽死の条件に「耐え難い苦痛」が入っているが、それはがんの末期患者を想定したものである。ALSの患者の「底知れない恐怖」はこの条件から除外されている。
京都の嘱託殺人事件で亡くなったALS 患者Aさんもブログで「緩和ケア医の先生方がなぜ安楽死議論をがん患者に的を絞って話されるかにいつも不満を感じていた」と打ち明けている。
私は以前うつ病を患った。うつ病のひどい症状に自殺願望がある。私はそこまでは行かなかったが、体験上「言いようのない不安」が支配するのではないかと思っている。それから逃れたいので自殺を希望すると考えられる。一説によるとうつ病の最悪状態では、死期を宣告されたがん患者の心理状態よりも落ち込みが激しいという。
自らの命を絶つことを望む(自死願望)という点では安楽死(広義)は自殺とほぼ等しいと思う。コロナ禍の中、自殺者が増えているからか新聞に次のような文章を見つけた。
「090-○○○○-○○○○(※ 紙上では公開)」の携帯電話は365日、電源を切らない。「つながらないと相手は絶望しちゃうんで」。自らの電話番号を公表して8年。2万人以上の自殺相談にのってきた。……傾聴ではなく、論破が大事という。「死にたいときは、脳が混乱して誤作動しているだけだから」。まずは休もうと語りかけ、一日の過ごし方をともに考える。……
「いのっちの電話」で自殺相談にのる作家・建築家 坂口恭平さん(42)
朝日新聞 ひと欄 11月14日付
うつ病患者の自殺願望は「脳の誤作動」と思えるが、ALS患者の自死願望は果たしてそのようなものだろうか。