私の高校の同級生M君は当時同期生の間で「(数学の)天才」と呼ばれていた。
その頃流行り出したルービックキューブを初めてなのにものの1、2分で完成させてしまった。
また今でも有名な数学雑誌「大学への数学」(東京出版)の毎月の学力コンテスト成績優秀者として彼は常連であった。
M君は京大理学部へ進学したのだが、東大理Ⅰに行った友人が他校出身者から「君の高校にMという生徒がいるよな」と質問されたということだ。
それほど彼の名は数学愛好家の中で全国的に名が知れていたのである。
そんな彼は当然数学者になった。
十数年前になるだろうか、私の実家が京都の古民家であるということで、アメリカの数学者を連れて見学に来たことがある。
そんなとき「ぼくらプロは…」と表現したことがある。
なるほど、数学者というのは数学を扱うプロフェッショナルなんだと感心したことがある。
数学の天才であった彼が京大理学部に進むというので、数学科に行くのをあきらめて京大医学部に行った者もいたと聞く。
それで思い出した。
私がお世話になったY先生が言われたこと。
「何年に一度かの天才があらわれると普通なら秀才として大学に残れた者が色あせて見えてしまう。よく切れている刃物もカミソリが来ればナタになってしまう。」というのである。
天才はまわりの人生を変えてしまう。