受験の悦び その1 の続き
自分の甘さを思い知らされたその文章は今では手元にないので、淡い記憶をたどって再現してみたい。
会員のみな様、初めまして。
私は小さい頃から心臓病で入院生活をしてきました。
学校に通うことはほとんどできなかったので、勉強は病院でしてきました。
この通信添削もそれで始めました。
ただみなさんのように大学受験ができないので、この欄の文章を読むたびにうらやましく思ってきました。
ところが、今日主治医の先生から「大学に行けるから受験勉強してもいいよ。」と言われました。
私は今うれしくてたまりません。
目標をもって受験勉強ができるのです。
来年の春、大学の門がくぐれるよう頑張ります。
今、私の夢は大学生になって、ボーイフレンドと一緒に白い砂浜を思い切り走ることです。
ペンネームA
私は自分の生活を恥じた。
自分の置かれた環境がいかに恵まれているのかを気づかされた。
7月に診断されたとき、医師からは「自宅で学習する程度は何も問題がない」と言われていた。
病気を口実に受験を放棄したのは臆病な弱い自分の心によるものだ。
小説の世界に自分の居場所を探し、巡り歩いていた哀れな人間でもあった。
太宰治、織田作之助、坂口安吾などに憧れ、そんな勇気もないくせに彼らのような人生を自分も歩めると思い込んでいた。
他人、そして自分にうそをついて過してきた。
そんな馬鹿に一撃を与えてくれたのがこの文章であった。
そして遅まきながら「ボクも頑張ろう」と決意した。
しかし、入試まで4ヶ月しかない。
それに日本史、世界史、生物の3科目はほとんど手をつけていない。
これで京都大学法学部に受かろうはずがない。
常識的に考えればそうなのだが、心臓病の彼女のことを思えば死に物狂いで挑む以外ない。
まずはそれぞれの科目の参考書を1冊ずつ決めた。
どれも数百ページはある。
日本史、世界史はもちろん山川出版のもの。
その基本書1冊を丸ごと頭の中に入れる。
1ヵ月ずつ、11月・12月・1月にそれぞれ1回目の完全制覇、2月に入って1週間ずつ、第1週・第2週・第3週に2回目の徹底復習、2月の第4週目に入って2日ずつ3回目の駄目押しを行なう計画を立てた。
そして11月から実行に移したのだった。