先日京都のある老舗料亭の板前さんの料理番組がテレビで放映されていた。
その料亭の名前は私の思い出に深く刻まれている。
私は学習塾を始めた頃、生徒数も少なくそれだけで生活していけなかったのでアルバイトをしていた。
そのアルバイトの1つに弁当屋の配達がある。
毎日3,000食余りを出荷する中規模の会社だった。
配達先は銀行や染色工場その他いろいろだったが、そんな中になんとその料亭もあったのにはおどろいた。
その料亭の板前さんのための配達をするのである。
先輩によると賄いでなく外注の弁当にすることによって経理上の利点があるらしい。
高級料理をつくる人達が350円程度の弁当を食べているのかと思うと不思議な気がしてきた。
そうした関係もあってか、その料亭のレシピで茶碗蒸しをわが弁当屋が作っていた。
工場長は「こんなん何の儲けにもならへん」と愚痴をこぼしていた。
そんな作品がデパ地下に老舗料亭の味として並んでいたのだろうか。
年末には配達員の私達も総出でお節のためのお重に食材を詰めていった。
そう、これは一流料亭のお節料理なのである。
私は海老を指示に従って並べながら、どんな人がこれを食べるのだろうかとふと考えたものだ。