これは故本多静六氏の著書(実業之日本社)のタイトルである。
氏の著書は367冊にも及び、最近一部が復刊されている。
それぞれの巻末には解説が添えられており、その書き手の中には少し首を傾げたくなる方もおられるが、それも出版社の売らんがための人選と考えれば仕様がない。
ここでは「お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法」(同氏著 三笠書房)の解説者・竹内均氏(東京大学名誉教授)の文章をお借りして本多氏を紹介しよう。
(御存知の方もおられると思うが。)
本多静六(ほんだ・せいろく)〔1866~1952〕埼玉県生まれ。
十一歳で父を失い、苦学する。
のちに本多家の養子になり、現在の東大農学部を卒業。
帰朝後は東京帝国大学助教授から教授になり、日本初の林学博士となる。日比谷公園の設計者であり、国立公園の設置にも尽力する。
山林、土地、株の売買などで巨万の富を築いた蓄財家としても有名。
最近、私より少し年輩である同業のA氏から本多氏の著書のことを教えられた。
すぐに3冊購入した。
その人生哲学には非常に感心し、また「このような傑出した人物のことをなぜ知らなかったのか」と残念に思った。
A氏自身若いころからその中の蓄財哲学を実践してきたというのでさらに驚いた。
ところで、私塾の業態は師弟教育(人間教育、社会教育など)からノウハウ提供(英会話、受験産業など)まで幅広い。
前者に傾く程本来の教育としての価値は高まっていくと思うが、金儲けという点では期待薄と言わざるを得ない。
私は今まで若い講師達にその矛盾点をうまく説明できなかった。
しかし、本多式蓄財法がそれを埋めてくれ、また実践者A氏がそれを証言してくれる。
有難いことになった。
本多氏がドイツ留学中に師事したミュンヘン大学のブレンタノ博士の次の言葉が本多氏に多大な影響を与えたという。
「優に独立生活ができるだけの財産をこしらえなければ駄目だ。そうしなければ常に金のために自由を制せられ、心にもない屈従を強いられることになる。」
そして勤倹貯蓄をモットーに独自の蓄財法(単なる貯蓄や欲得の投資ではない)を編み出した氏は1927年の定年退官を期に、ほぼ全財産を匿名で寄付したという。
これはただの拝金主義者ではできない。
今まで私は「自分の職業柄、富を築くべきではない」と考えてきた。
本多氏の実践によって教育者でも〔職業〕で儲けるのではなく〔蓄財〕で富をつくられることがわかった。
富を否定するべきではないのだ。
ちょうど昨日の朝日新聞に「幸福学」の第一人者ルート・ビーンホベン氏のことが載っていた。
「世界幸福データベース」を主宰する氏は「幸福の条件はまず、富、民主主義、良い政府。」と言われているではないか。
先日A氏と食事をしながら本多哲学の話をした。
その中で私達は「学校教育に本多式蓄財哲学を加えるべきだ」ということで意見が一致した。