私の人生(17)
講師指導マニュアル(1)
■なるべく教えない
学習塾は知識の切り売りをする商店ではなく、生徒を伸ばすという請負仕事である。
評価されるのはどれだけ伸びたかであって、どれだけ教えたかではない。
生徒の学力を本当に伸ばすためには、教えすぎてはならない。
生徒に自分で勉強させるよう教え込まねばならないのである。
生徒にべったり付きっぱなしで依頼心を植え付けるような指導はしない。
だから、生徒が1人で勉強したり、チェックテストを受けたりした結果分からないところだけを、分かるように教える。
参考書などの解説や、問題の解答・解説を読んでも生徒が理解できないときこそが講師の出番である。・・・・・・・
教育関係の某新聞 平成10年5月25日
前回学習塾の経営コンサルタントの話題に触れた。
話が前後するが、今回は20年程前に親しくしていたK氏(今は故人)というコンサルタントを紹介したい。
同じ塾経営コンサルタントといっても、その頃には珍しい個別指導塾を専門としていた。
上記の文章はそのK氏が教育関係の新聞に連載していたものの中から引用したものだ。
今読んでみるとあの頃が懐かしい。
氏は私と同年齢で、私が塾を始めた頃はすでに300名程の生徒を抱える個別指導塾を運営しておられ、その名は京都では結構知られていた。
塾経営者として後発の私には、氏は成功者の1人として見えた。
その後知り合った時、氏は自塾を大手進学塾に譲渡し個別指導塾の運営コンサルタントになっておられた。
私は塾業界にコンサルタントなる職種があることをその時初めて知った。
見よう見まねで塾を始めていた私にとって、氏の運営理論はその存在自体が驚きであった。
業務としての学習塾を軽くみていた私には「何を大袈裟な」との思いがあった。氏の生き方に興味を持った私は積極的に交流を深めた。
時々訪れた氏の事務所は書籍や書類が大量にありそれも少しの乱れもなく管理されていた。
何しろ忙しい方であった。
各地へコンサルに行ったり、携帯は2台で四六時中通話していた。
また氏はコンサルタントの傍らある塾に頼まれ岡山で個別指導塾を運営していた。
もちろん毎日は通えないので、講師に生徒1人1人の記録をファックスで送らせ指示を与えていた。
他の塾長と同様私も見学に行ったが、整然とした教室に多くの生徒が静かに学習していた。
このような遠隔操作で塾生を集めることに私は感心した。
氏によって私の学習塾に対する見方が変わった。
学習塾の存在意義を高めてくれ、また仕事として学習塾を捉えることができるようになったことは私にとって大きな転機であった。