去年9月のリーマンショック以降、日本社会において雇用問題(特に派遣社員)そして経済格差が大きな話題となってきた。
そして近頃その影響であろうか次のような新書が次々に刊行されている。
「新学歴社会と日本」(精神科医・和田秀樹 中公新書)、「学歴分断社会」(大阪大学准教授・吉川徹 ちくま新書)、「進学格差」(東京大学教授・小林雅之 ちくま新書)、「学歴格差の経済学」(橘木俊詔・同志社大学教授 松浦司・京都大学研究員 勁草書房)
特に和田氏は進学塾にも関わり受験ノウハウ本もいくつか出されている方だが、日本の現状に対して過激とも思われるはっきりした見解を持っておられる。
――地方に住んでいると、本当に、東大卒の成功者の生の姿に出会うことが少なくなってきた・・・・・地方にいたら、今の日本の「学歴社会化」の進行に気がつくのも無理な話だろう・・・・・これから、「厳しい学歴社会」(今までの学歴社会が「緩い学歴社会」だったという意味で)、「真の学歴社会」が始まるからだ。
だからこそ、保護者は危機感を持ち、自分の子どもに十分に勉強をさせないといけない、ということだけは確認しておきたい。――
また氏は自分の体験を踏まえなかなかおもしろい表現をしておられる。
――しかし私は学歴が遺伝するのではなく、実は受験技術や勉強法の伝承だと思う。
・・・・・一方、逆に親があまり学力が高くなく、受験の体験などが乏しい場合、子どもの成績が少しでも下がると、子どもの可能性に対してあきらめてしまって、「どうせ頑張ってもムダだ。」「蛙の子は蛙」と思いこんでしまう。
その結果、子どもに勉強をさせないため、ますます学力差が開く一方ということになってしまう。――
ところで4月19日付のある新聞に京都造形芸術大学教授・寺脇研氏のことが載っていた。
氏は文部科学省の官僚だった時代に「ゆとり教育」を推進した中心人物だ。
10年ほど前、私は彼の講演を聞きに行ったことがあり、その頃のことを思い出しながらこの記事を読んだ。
新聞には次のような文章で締め括られていた。
――勤務先の大学は、専門性が高いだけに進学時に悩んだ学生が多い。
反面、「今の就職を不安がる学生なんていない。大企業の正社員になるのが一番だとは誰も思っていないから」。――
円周率3.14を3にするなどして学生の学力低下を招いた張本人らしい意見である。
自らは官僚になるために学歴社会を生き抜いてきたのではないか。
「学歴や学力が人生のすべてではない」ことぐらいほとんどの人はわかっている。
実体験なしに理想を追い求めるのは個人の自由だが、「若い者達に現実の厳しい社会状況を目の当たりに見せて考えさせる」ことが先達としての責任ではないか。
これは「官僚の無責任」という言葉だけでは片づけられない問題だ。