「一羽動かなくなってるわよ。」
数日前の朝、家内のあわてた呼びかけに私は驚いてふとんをはねのけて鳥かごを見に行った。
カラフルな2羽(種類がわからない)のうちの1羽が横たわっていた。
急いでそれを取り出し手のひらに乗せたがすでに死んでいた。
「かわいそうなことをした」と自分を責めた。
昨日止まり木から降りてエサ入れの辺りで妙におとなしくしているので「おかしいな」とは感じてはいた。
ここ数日小鳥達の世話に慣れてきた私は少し手抜きをするようになっていたが、それにしてもこんなにもか弱いとは思っていなかった。
そんな自責の念とともに「なぜ私がこんな目に遭わなければならないのか」とのいい知れぬ腹立たしさが沸いてきた。
なにしろ私は小さい頃から生き物を飼うなどというそんな趣味もなく経験もない。(一時、実家に犬はいたが、私が世話をしていたわけではない。)
それが最近、塾にいる亀と魚の飼育も私の担当になり(講師の負担を減らそうと思い)、さらに家ではこの小鳥達の世話だ。(家内は鳥は苦手で、かごの中に手を入れることができない。)
なぜこんな状況に陥ったのだろう。
今年の夏期講習で私は中学受験の算数の授業を担当していた。
例年小6生は朝から夕方まで毎日長時間学習するので、午後近くの小さな公園に15分ほど彼らを連れ出すことにしている。
その日も授業が終わるや否や皆喜んで公園に出かけた。
私も急いで後を追った。
公園につくとA君が「先生、きれいな小鳥がたくさんいる。飼われていたのだから保護してやらなければ大変だ。」と私に言ってきた。
最初、何を言っているのかピンとこなかったが、本当に公園の草むらなどあちこちに色とりどりの小鳥がおとなしくいるではないか。
驚いた私は後先を考えずA君の言ったことに反応して塾からダンボール箱をとってきた。
それからは小鳥達の捕獲ゲームとなってしまった。
思ったほど俊敏でもなかったので、子供達の協力のもと何とか5羽まで捕まえることができた。
生徒達を塾に戻した私は、ちょうど時間があいていたので近くのペットショップに急いだ。
そこは小鳥屋ではなかったが、運よく鳥かご(ケージ)を売っていたのでそれを購入し、5羽の小鳥をそれに入れ、ホッと安心した。
その安心こそ余計なものに手を出したことによるツケの予兆であったことを興奮の中で自分では全く気づかなかった。(つづく)