2020年度入試が終わり、入江塾6年生33名は各々の志望校の合格をつかんでくれました。そのなかで洛星中学には3名の合格者を出すことができました。その3名は洛星対策授業を受講してくれていました。
洛星対策授業(理科)を担当している私にとっては当然嬉しい気持ちや安堵感は持ちつつ、残念ながら合格をつかめなかった生徒もいるところで、もう少し何か出来たことはなかったかと考えることは多々あります。
今回は新年度の洛星対策授業にむけて、2020年度の洛星中学入試(理科)を実際解いてみました。
解き終わった感想は理科については例年と比べるとやや易しかったかなという印象でした。すべての問題が易しいという意味ではなく、過去の問題に類似した問題がいくつか出題されていたり、新出の問題もありましたが問題で与えられた条件をしっかり理解できれば複雑な計算が必要なかったというところで解きやすく感じたからです。
2020年度は大きく4つの設問が出題されました。ここからはそれぞれの設問についての概要と解いた感想です。
大問1は「地震」からの出題でした。
設問の前半は複数の地点の地震の記録から震源までの距離を求めたり地震発生時刻を求める地震の定番の問題です。
よくあるパターンは条件で与えられたいくつかの震源距離とゆれのはじまった時刻から速さの公式を使うことによって解くのですが、今回の問題は震源距離はいっさい与えられずP波・S波(ゆれを伝える波)の速さと初期微動継続時間(はじめの小さいゆれが続く時間)のみが条件で与えられた問題でした。
これは問題文でも説明してくれているのですが、初期微動継続時間がP波が届いてからS波が届くまでの時間であるということを使って解く問題です。方程式は使えませんのでP波とS波の速さの比からP波とS波が届くのにかかる時間の比(速さの逆比)を求め、その比の差が初期微動継続時間の比になるという比を利用して解くことになります。
洛星中学を受験する生徒ならば速さのこの手の問題は難なく解けたのではないかと思います。逆にここでつまずくとこれ以降の問題がほとんど解けなくなるので重要な問題でもありました。
次には震源の深さを求める問題が出題されました。条件で与えられた「3辺の長さの比が3:4:5の三角形は直角三角形」を用いる図形(相似)の問題で、前半で解答した各地点の震源距離から位置関係が3:4:5の直角三角形になっていることを見抜き、震源の深さを求める問題でした。
問題の条件で直角三角形の比が与えられている時点で問われているところもその比になっていると想像がつくので、前半できっちり震源距離を求められていれば解くことができるはずです。
最後には緊急地震速報に関する問題が出題されました。過去(2008年前期)にも類似問題が出題されたことがありましたが、緊急地震速報と実際のゆれが届く時間差を問う問題で、こちらは速さの公式で解くことができる速さの基本問題でした。
以上他に知識を問う問題もありましたが、はじめの速さの比を利用して解く問題が出来るかどうかにかかる設問でした。
大問2はどの学校でも出題頻度の高い「ばね・てこ」からの出題でした。
はじめは元の長さと伸び方が異なる3種類のばねを2本ないし3本使用し、棒をばねで天井につり下げて棒におもりをつり下げることにより棒が水平になるようにする問題です。
3問の小問がありましたが、いずれも棒を水平にするということからすべてのばねの長さが同じになるときの各ばねにかかる力やつるすおもりの重さ、つるす位置を求めればよいことになります。
ばねにかかる力の比からつるす位置(距離)の比を求める解き方や、支点を決め「てこ」の回転の式を立てる方法で解くことができる「てこ」では必須の解き方をする問題でした。(2016年前期や2006年前期の類似問題でもありました。)
次には回転できる円盤が地面に垂直になるような状態に固定され、円盤の円周を3等分した点に重さの異なる3つのおもりをつり下げた時にどれだけ円盤が回転してつりあうのかを求める問題でした。
少し難度の高い問題でしたが、ひとつのおもり(10g)が円盤の中心の真横の位置にきた時に円盤の半径の長さと残りのおもり(計20g)がつり下がる位置がちょうど2:1になりつりあうようになるという考え方になります。
これも一度過去(2008年前期)に類似問題が出題されたことがあったので、過去問をしっかり解いてきた生徒はすぐに気が付いたかもしれません。
最後は重心について考える問題でした。材質が一様で幅・厚みが均一な板をずらして重ねていったときにくずれるかどうかを見る問題です。上に重ねた板の重心(板の中央)が下の板の端(支点)からはみ出るとくずれてしまうということになります。
この内容は洛星の入試ではこれまでに出題されたことはなかったのですが、他の難関校の入試では見たことのある内容です。
ばね・てこは難問が出題されやすい単元ですので、洛星の問題だけでなく他の難関校の問題にも触れて練習しておくことも必要です。
大問3は植物の発芽の仕組みを調べる実験からジベレリン(植物の伸長成長や発芽を促進させる植物ホルモン)が種子の発芽を促進する仕組みを考察する問題でした。
ジベレリン自体は小学校で学習する内容ではありませんので、問題で与えられた実験結果からジベレリンがどういったはたらきをしたのかを考えることになります。
はじめは実験で使用したオオムギの胚乳に蓄えられている栄養分が何なのかを問う問題やその栄養分をヨウ素液を使って色の変化を調べているのですがその色の変化を問う問題でした。これは受験生は間違ってはいけない基礎問題でした。
実験の中ではヨウ素液の色の変化が見られる部分と見られない部分が生じるのですが、糊粉層(胚乳の一番外側の部分)の周辺で色が変わらなかった理由を問う語句挿入の問題からこの実験で起こったことを推察することが大問3のキーポイントでした。
結果としては種子の中の胚(発芽して芽や根になっていく部分)でジベレリンが合成され、ジベレリンが糊粉層にはたらきかけアミラーゼを作らせ、胚乳に蓄えられていた養分を胚の成長に使いやすい小さな糖に変えて、種子の発芽を促進させているということになります。
他にはデンプンが糖に分解されることについて人体の消化液に派生させた問題もありましたがこれは基礎知識で解けたと思います。
大問4は溶液の濃度に関する新出の問題でした。
水と混ざり合わない液体Xと水にも液体Xにも溶ける物質Aがあり、物質Aが溶けた水に液体Xを加えてかき混ぜると水の中に溶けていた物質Aのうちのいくらかが液体Xに移り液体Xの中に溶けていくという内容です。
問題には水に最初に溶かしていた物質Aの量とその後に液体Xに移っていった物質Aの量・水に溶けたまま残った物質Aの量がいくつか実験結果として示され、問題文の最後に「一般には、これ以上物質Aが液体Xに移って溶けていかなくなったときに、液体Xに対する物質Aの濃さを水に対する物質Aの濃さで割ると常に同じ値になるという法則が成り立つ」という条件が与えられていました。
8問の小問で水に残った物質Aの量や液体Xに移って溶けた物質Aの量等を求めることになるのですが、すべて水の量や液体Xの量・物質Aの量が変わっただけの問題だったので、問題文最後の「濃さの比が一定になる」という条件をしっかり理解した上できっちり計算できるかにかかった問題でした。
受験生も学習したことのない内容で最初はとまどった生徒もいたかもしれませんが、問題文をしっかり読み条件を理解さえできれば、内容自体はそれほど難しくなかったと思います。
以上が2020年度・洛星中学(理科)入試問題の概要です。
洛星中学の入試において理科は一番目の教科です。どれだけ勉強してきても多くの受験生は最初に受けるテストでは緊張するはずです。実際今年合格してくれた生徒の体験記にも1教科目の理科では緊張して足がずっとふるえていたと書いていました。
緊張はしても動揺せずに問題に臨めるかが大事です。そんな中、解いたことのあるような類似問題が出て、それに気付くと気持ちも優位に立てるはずです。今年度は過去の類似問題がいくつかあったので合格をつかんだ3名はそこはしっかり解ききってくれたはずだと思います。
そういった面からも当然過去問の対策は重要です。新年度の洛星対策授業(理科)でもまずは過去問を中心に指導し、どんな問題が出てきても余裕を持って試験に臨めるようにしていきたいと思います。
筆者:木村隆志