いまはまだ自分で生活できていますが、足腰が立たなくなったらどうしましょう。行きたいところへ行けず、食べたいものを食べられなくなったら。いつの間にか認知症になって、何もわからなくなってしまったら。
食事から下の世話まで人さまの手を借りるなら、そうなる前に死なせてもらいたい。これは、尊厳とプライドの問題です。死ぬときに、痛いのや苦しいのも嫌です。だからいつどうやって死ぬか、自分の意思で決めさせてもらいたい。それには安楽死しかありません。
ヨーロッパのいくつかの国やアメリカのいくつかの州では、安楽死が合法です。だから日本でも認めてもらって、わざわざ外国へ行かなくてすむようになれば助かります。
こんな願いは私だけだろうと思いながら『文藝春秋』(2016年12月号)に「私は安楽死で逝きたい」を寄稿したところ、読者の方々から賛同の声がたくさん寄せられました。「私も安楽死に賛成です」「頑張って、法制化の旗振り役になってください」と、声をかけられる機会も増えました。
橋田壽賀子
《追悼》橋田壽賀子さん 文春オンライン
テレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」や「おしん」などの脚本で知られる橋田壽賀子氏が4月4日亡くなられた(享年95)。氏は92歳の時、それまでタブー視されてきた「死」に関する議論に一石を投じた。特に日本で事実上認められていない安楽死について肯定的にとらえ、それを発表した。それに対しては賛否両論、大きな反響を呼んだ。そして、月刊「文藝春秋」の2017年3月特別号の特集「安楽死は是か非か〈大アンケート〉著名人60名の賛否を公開する」で、氏は賛成論者の代表格として特別対談を行っている。その特集でのアンケートの結果は賛否半々であったと思う。反対論者の中には「在宅ひとり死のススメ」を今年1月に上梓した社会学者の上野千鶴子氏もいたが、その理由は「人間は生まれてくるときにそれを選択できないのだから、死ぬときもそれを自分で決めるべきでない」というものだったと記憶している。
橋田さんとは生前、一度もお会いしたことはありません。ただ、月刊「文藝春秋」の2016年12月号の寄稿「私は安楽死で逝きたい」には共感しました。それで私には、橋田さんを何か一種の「同志」のように思う気持ちが少なからずありました。・・・・・・それは、ある状況になれば、世俗的な絆を断ち切り、自分で人生に幕を引くのも良しとする往生への希求です。・・・・・自ら断食で衰え、逝くのが私のかねての涅槃願望であり、理想でした。だから、橋田さんの主張する安楽死には、かなり通じる点が多かったのです。・・・・・
「同志」の逝き方 思いはせ 山折哲雄 宗教学者 朝日新聞 4月28日付
山折氏のように今も橋田氏の考えに賛同する方は少なからずおられるだろう。ただお二人の安楽死論は老いによる衰えから捉えておられるように思う。ALSのような難病患者にもそれが通用するのか、それを知りたい。