私の人生(20)
うつの人を追い込みやすい問題は、うつの苦しさが、体験したことのない人には、なかなか理解できないということである。
うつは「心の風邪」などと喩えられるが、その喩えは、症状のつらさからすると、まったく適切でない。
その苦しさは、重症の肝炎や結核に喩えた方が近い。
いや、それ以上かもしれない。
動きたくても動けない、眠りたくても眠れない、けだるく何もする気力がわかず、悪いことばかり考えてしまう。
歓びも、自信も、興味も奪われてしまう。
それから逃れるために、死に駆り立てられてしまうほどなのである。
強い心をもつ人でさえ、「死ぬほど耐え難い」と感じることも少なくない。
「うつと気分障害」岡田尊司 幻冬舎新書 p.46
ところで私の方はといえば「うつ病」と宣告されたからかどうかわからないが「抑うつ気分」が日に日に大きくなっていった。
疲れや気力の低下、集中力困難、頭の回転の鈍化などもそれに伴って起こってきた。
体力的にも限界を感じ、イライラ感も強まってきたので、仕事場の近くのワンルームで生活することにした。
必要最小限のときだけ塾に行き指導した。(このときのスタッフ達の協力には今でも感謝している。)
その他は部屋のベッドに横たわっていた。
不思議なことに何時間じっとしていても退屈もしなければ厭きもしない。
逆に、動くのが億劫であった。
抗うつ剤、安定剤、入眠剤などを飲んでいたが、このままの状態がいつまで続くのだろうか不安だった。
その時見つけたのが「うつ病は必ず良くなる」(税所弘 リヨン社)である。
それは税所先生の体験をもとにしたできるだけ薬に頼らない実践療法である。
〔実践1〕毎朝5時に起床。
目ざめるとともにパッと跳びおきる。
これはつらかった。
〔実践2〕誓(うけ)ひ=目標を毎朝祈りつづけること。
祈ることはキリスト教会に行ったことがあるのでスムーズに行なえた。
〔実践3〕早朝散歩。
北野神社を通るコースを設定した。
雨でも行くように指示されていたので実践した。
〔実践4〕早朝体操=ヨガ。
税所先生のとり入れたのは大阪大名誉教授の佐保田鶴治先生の考案によるものだそうだ。
なんたる縁か佐保田先生には私が学生の頃京都の本能寺会館でヨガを習っておりすぐに実践できた。
〔実践5〕誓ひノート=自分の欠点や短所を明確にして、自分の願いを明文化しておく。
毎回同じような内容になるので続けるのが大変であった。
以上、税所式実践療法はつらい病床での支えにはなった。
ところで、授業準備には苦労した。
何しろ普段より頭の回転が鈍くなっているから時間もかかる。
以前とちがって自分で納得できる解説がなかなかできないのだ。
そんな苦労した解説が今でも残っているが、それがまた出来が良いのである。
理解が遅い生徒にもわかりやすい。
苦しんだ甲斐があったというものである。