さらば朝青龍
…154Kgの朝青龍は幕内の体重平均、決して体力的に恵まれているわけではなかった。
「土俵では鬼になる気持ちで」人一倍の闘争心をかきたててきた。
「品位」など眼中にないまま最高位に上りつめている。
彼は最後まで「横綱の品位」は理解できなかったに違いない。
…(2月10日付サンケイ・エクスプレス 福島保)
これは近頃相撲界で話題になった「横綱の品位・品格」についての文章の一部である。
たしかに「彼の行為は礼儀や規範のレベルで問われるものであって、それ以上の何ものでもない」と私は思う。
責められるのは教育する側であろう。
ところで「品位・品格」についてであるが、誰が自分以外のそれについて公に論評できる資格があるのであろうか。
「国家の品格」(新潮新書 藤原正彦著)の序論「…品格なき著者による品格ある国家論、という極めて珍しい書となりました。」とはおもしろい表現だ。
「全ての日本人に誇りと自信を与える。」との宣伝文句でベストセラーとなったこの著書は「『No』と言える日本」(盛田昭夫/石原慎太郎共著 光文社)を思い出させる。
日本人はこの手のほめ言葉に弱いのだろうか。
この他「品格」を題名につけている書物3点を挙げてみる。
①「横綱の品格」(ベースボール・マガジン社新書 双葉山・時津風定次著) これは、1979年に「相撲求道録」として刊行されたもので、加筆・改筆・改題されたものだ。
力士・双葉山の自伝的な内容で「品格」そのものには触れられていない。
②「男の品格」(PHP文庫 川北義則著) 本の帯には「仕事も遊びもゆとりのない男には魅力がない…。」などと書かれている。
川北氏に著書は多いが、肩書きは生活経済評論家となっており本職がよくわからない。
③「女性の品格」(PHP新書 坂東真理子著) 300万部も売れたらしい。
坂東氏は公務員を経て、昭和女子大学女性文化研究所長そして現在同大学学長である。
②③ともいわゆるノウハウ本であるが、私には「品格を磨くためにこのようなものを買って読もう」という人の気が知れない。
私が大学に入った頃、その年に定年退官された故於保不二雄京大名誉教授に、ある会でお目にかかった。
学生たちに「私の自宅の目の前に酒屋があります。酒はそこにいくらでもありますから、いつでも訪ねて来て下さい。」と先生はおっしゃった。
真に受けたのは私ぐらいだろうが、さっそく何の連絡もとらず悪友と訪問した。
先生は喜んで?迎えてくださった。
酒はもちろんいただいた。
先生は酒豪で知られておられたが、正座したまま一向に乱れない。
我々の方がへべれけになってしまった。
先生は「学部の担当講義1回のために2、3日は準備がいります。
ですから他の大学に非常勤講師として行っている余裕などありません。」とおっしゃった。
そして退官後はどこの大学にもいかれなかった。
その後も幾度となくお会いし、食事を共にしていただく御縁に恵まれた。
私にとって「品位・品格」といえば、先生のことを思い出す。
私の友人に数学者(東京大学)がいる。
昔あるとき彼から「ぼくはプロだから…」という言を聞いたことがある。
私は「学者にもプロという表現が使われるのか」と感心したことを今でも覚えている。
「品位・品格」について世に説教する方は、少なくとも一道に徹せられた者(プロ)であってもらいたい。
それが私の勝手な意見だ。