私の人生(11)
●経営者としての土台
1.人間力 2.直感力 3.時代を読む力 4.運力
これらは現実の経営をする上で直接的に役立つ能力であり、実務家なら誰しもがその重要性を認めている。
にもかかわらず、これらの項目は従来の経営学の守備範囲外だ。
・・・・・・・とりわけ、企業経営が危機的な局面を迎えたとき、この四項目のうち、私がここで「運力」と名づける力を、どれだけ意識して身につけてきたかが、勝負の分かれ目になる。・・・・・・・
●運力とは――
①自らの運命に対するマネジメント力
②自らの運命の流れをしっかりと見極めて、好運にも有頂天にならず、不運にもジタバタせず、淡々と対処することができる能力
③いかなる状況の下でも、自らの運命に対して、絶対的に信頼できる能力
④不運の中に好運を見出す能力。あるいは、不運を好運に転じることができる能力
⑤知識を積み上げてもダメで、身体感覚として把握する以外、強化の道がない能力
「経営者の運力」 天外伺朗(講談社) p.54,55,63
私は髭を生やし出した。
大きな勝負に打って出ることを自分なりに自覚させる効果を狙う(言わば鉢巻き)とともに、チラシに載せる私の顔写真が少しでも人の目を引くようにするためであった。
新しい教室の賃貸契約、内装工事の発注や理科実験教室の運営計画などについて、忙しい日々が続いた。
秋から冬になり新年度も近づいてきた。
私の塾の指導だけで(他の塾を併用せず)有名私立中学に合格する生徒が出だしていたここ数年。
その中の1人の父親に写真家がおられた。
展覧会なども開いておられる方だったが、私の顔写真を撮ってもらえないか頼んでみた。
二つ返事で快諾してくれ、すぐに私の塾に来て下さった。
南の6畳部屋で手際よく撮影そして終了。
出来上がりを見て驚いた。
なかなか凛々しく写っているではないか。
さすがプロだと感心させられた。
ところで私の母は自分の息子の学歴が中途半端なこともあってチラシなどで私を世間にさらしたくなかったようだ。
気をつかいそれまで私個人を前面に押し出すようなものは配布しなかった。
しかし、今回ばかりはそうはいっていられない。
恥も外聞もない。
塾経営が軌道に乗らなければ大変なことになる。
私だけの問題では済まされない。
年が明けた2月。
表・裏に阿部進先生と私の顔を大きく載せたチラシを今まで以上のエリアに配布することを決定。
また従来のようなチラシ反応率では到底勝負にならない。
さらに中身も保護者層の興味を引くものにと苦心に苦心を重ねた。
松下幸之助は人間にとって大切なものは「運、鈍、根」だと言っておられる。
まさにその運が試されようとしている。
運は人間の力ではどうにもならないものなのか。
「運を天に任せ、祈る」という表現は単なる神頼みということなのか。
私にとって再び「生きている神」の体験が始まった。