ヴァルネラビリティ
「ヴァルネラビリティ(vulnerability)」という言葉があります。
聞き慣れない言葉ですが、日本語では「攻撃誘発性」と訳しています。
どんな人が、攻撃対象となり、いじめの被害に遭いやすいかという視点からの言葉で、竹川郁雄はその内容から3つに分けています(竹川郁雄『いじめと不登校の社会学』法律文化社、1993年)。
1つは、特異な身体的違和感や明らかな負性から生じるもので、不潔、動作がのろい、心身障害、身勝手など。2つめは、ある一面のつけ込まれやすさから生じるもので、例えば学級の班競争のなかで、お荷物となっている子どもなど。
3つめは、他者への優越性や、優れた面の目立ちやすさから生じるもので、成績がよい、マジメなど。差異をキーワードに考えると、一般に劣っていると思われる特徴を持っている子が、いじめの対象になりやすいことは事実としても、優れていることもいじめの理由になります。
そう考えると、ヴァルネラビリティはもともとあるものではなくて、平均からはみ出ているかどうかが問題になります。
「なぜ、人は平気で『いじめ』をするのか」
加藤芳正著(日本図書センター)p.132,133から抜粋
前にもブログに書いた小5で入塾してきたA君を思い出す。
三者で面談したとき、お母さんはわが子をアスペルガー症候群だと言った。
確かにお母さんに促されてペコンとお辞儀をしたり、私達の話には無関心な様子で視線は我々に向いておらず本人は別世界にいるようだった。
中学入試をしたいので指導をお願いするということなので個人指導で引き受けた。
その後、いじめによる不登校状態ながら、塾には喜んで通っていた。
私は算数を担当したが、驚いたことに微分・積分ができるというのだ。
試しに専門の講師に確認させたところ、本質はどこまで理解しているか分からないがそれらを使えるという。
驚愕した。
先輩、同級生にも有名な数学者がいる。
また教え子達も私よりはるかに数学的才能を持った者達がいた。
しかし、このような人物に出会ったのは初めてだ。
そしてお母さんに言わせると、本人は四次元空間を認識できるようだし、インターネットで世界の数学者と交信しているらしいという。
私は教えているとき彼の才能を実感した。
このような複雑な計算式を暗算で解いてしまう。
指は動かさず、じっと見ていて30秒後ぐらいにボソッと答えを書くのである。
それがことごとく正解なのだ。
まさに天才としか言いようがない。
私は中学受験に必要な問題を与えただけ。
類いまれなるこのような人間に出会えたことを私は今でも光栄に思っている。
A君は第1志望校(もちろんお母さんが選んだ)に合格した。
担当した私達講師は報告に来た彼に「おめでとう」と祝福し、自分達も喜んだ。
しかし、その後程なくA君は再び不登校になっている事実を知った。
音信不通のため現状はわからない。
A君のあの澄んだひとみがなつかしい。
A君が排除されているならば、私は彼を排除する平均的人間どもに言いたい。
「彼に与えられた天命を理解せよ!」
※ 以下の著書はA君を励ますと思われるものだ。
1. 「ぼくには数字が風景に見える」
ダニエル・タメット著(講談社)
2. 「天才の秘密」 M.フィッツジェラルド(世界思想社)
3. 「天才の脳科学」 ナンシー・C・アンドリアセン(青土社)
4. 「天才と発達障害」 岡 南(講談社)
5. 「アスペルガー症候群の天才たち -自閉症と創造性-」
M.フィッツジェラルド(星和書店)
6. 「アスペルガーの偉人たち」 イアン・ジェイムズ(スペクトラム出版社)